「え・・・?」



キョトンとオレを見上げ、ゆっくりとサクラが起き上がった。





「カカシ先生・・・、どうしたの・・・?」

「あ・・・いや、その・・・」

「あのツボ・・・そんなに痛かった?」

「いや・・・そんな事は、ないんだが・・・」



コソコソと背中を見せるオレにくっついて回り、何事かと覗き込んでくる。



(くそー!隠してんだから覗くなよっ!)



「な、なんでも、ないから・・・心配するな・・・」

「うそ。先生苦しがってるじゃない」

「苦しくなんか・・・ない・・・」

「どうしてそんな嘘つくの?お腹抱えてる癖に・・・」

「いやな・・・。これは、その・・・」

「お腹痛くなっちゃったの?」

「さ、触るなぁーーっ!!」

「え・・・?」

「ちっ、違う違う!腹なんてぜぇーんぜん痛くないから・・・!」

「・・・本当に?」





(頼むから放っといてくれ・・・)



マジに泣きたくなってきた・・・。

サクラの世話好きな性格が、これほど恨めしい事はない。

気を落ち着かせようにも、サクラが周りをうろちょろしてては到底無理だ。

もう、全てを有耶無耶に誤魔化したい・・・。





「じゃあ、一体・・・。あ・・・、もしかして・・・」



うずくまりながら懸命に肩で息をしているオレを見て、サクラがハッと思い当たる顔をした。



(ばれちまったか・・・?)





「ご、ごめんなさい。私・・・、わざとじゃなかったんだけど・・・」

「ハハハ・・・い、いや・・・そ、そうだよなー・・・」

「もう、カカシ先生ったら・・・。言ってくれれば良かったのに・・・」

「へっ!?・・・い、いや・・・、言いようなんて、ないでしょ・・・」



引き攣った笑いしか浮かばない。

とにかくこの場を丸く治めないと・・・。



「・・・・・・」

「え、えーと・・・」

「そんなに私・・・、重たかった・・・?」

「は・・・?」

「だって・・・、先生、足が痺れちゃったんでしょう・・・?」

「あ・・・、あー、あー!そう、そうなんだよねー・・・!」

「ごめんなさい。足の血流を良くすれば早く良くなると思うわ。お詫びに私が・・・」

「あぁっ!?・・・け、血流良くしちゃったらダメ・・・!とんでもない事になるから絶対ダメ!」

「そんな事ないわよ。ほら、じっとしてて」

「うぐっ・・・!」



よりにもよって、ヤワヤワと腿をマッサージし始めやがった・・・。



「サ、サクラーっ!それ逆効果だから・・・、思いっ切り逆効果だからぁーーっ・・・!!」

「いやーー!せんせぇ、しっかりしてぇーー!!」











バタッ・・・――

二つ折りになって、完璧に石化してしまったオレ・・・。

もう起き上がる元気なんて、微塵も残ってない・・・。





「ど、どうしよう・・・。せ、先生・・・大丈夫・・・?」

「あ、あぁ・・・、多分・・・」






ウルウルと瞳を潤ませて、一生懸命背中をさすってくれるサクラに、


「悪いけど・・・、水・・・汲んできて・・・」


と言うのが精一杯だった・・・。

















「はい・・・」とコップを手渡され、ゆっくりゆっくりと口にした。

ゴク・・・ゴク・・・

コップの水に、心配そうなサクラの顔が映っている。



「ふぅ・・・」


やっとの思いで水を流し込み、ガクリと俯きながらも、何とか気力を持ち直そうと踏ん張った。





「まだ・・・具合悪いの?」

「いや・・・、もうかなり、平気・・・」

「本当・・・?」

「あぁ・・・、驚かせて悪かったね・・・」





まずはサクラを安心させようと、出来る限り、さり気ない笑顔を浮かべた。

・・・まあ、かなり引き攣っていただろうが・・・。

サクラもまだまだ不安そうだったけど、とりあえずは小さく微笑みを返してきた。





「いろいろと勝手な事してごめんなさい・・・。今日は、もう帰るね・・・」

「あー・・・、気をつけてなー・・・」

「・・・ねぇ」

「・・・どうした?」

「また、遊びに来ても・・・いい・・・?」





オドオドと上目遣いにオレを窺う。

うわ・・・、その目はやばい・・・。非常にマズい・・・。



「うーん・・・」



チカチカと頭の中で注意信号が点滅している。

またこんな事をされたら、一溜まりもないのは事実・・・。

だけどここで突然断ったりしたら、サクラはオレの事訝しがるだろうなぁ・・・。

でもなぁ、もしOKしたとしても、この次平常心でいられる自信はこれっぽっちもないし・・・。

平常心どころか、むしろサクラを・・・。サクラの事を・・・。

うわー、どうする・・・!?どうすればいいんだ、オレ・・・!?






頭の中が悶々として中々答えられないでいると、サクラが今にも泣きそうな顔になってきた。





「もしかして・・・私、カカシ先生に嫌われちゃった・・・?」

「・・・へ?」

「だって・・・だって・・・」





ぽろっと涙が零れ落ちる。

小さな肩が、フルフルと震え出した。



(な、なんで泣くんだよっ・・・!それって反則だろーが!)



「き、嫌ってない、嫌ってない!全然嫌ってないって・・・!」

「・・・ホント?」

「ホントホント」

「じゃあ・・・、また来てもいい?」

「あー・・・。・・・いいよ・・・」





ガクリと項垂れるオレとは正反対に、サクラは両手を合わせ、「よかったぁ・・・」とパーッと顔を綻ばせた。

やばい・・・。マジで可愛い・・・。





サクラが、ツツ・・・と膝で詰め寄ってくる。



「じゃあ、先生が早く元気になるように“おまじない”してあげるね」

「・・・おまじない?」

「うん。『カカシ先生が早く良くなりますように・・・』」

「おわっ!!」



オレの心中を知ってか知らずか、いきなりサクラが抱きついてきた。





な、なんだかフニャッとしたモノが頬に当たってるんですけど・・・。

でもって、プニョッとしたモノまで腕に当たってるんですけど・・・。





「・・・・・・」

「ふふっ」



(くっ・・・!気をしっかり持たなくては・・・!)



大きく息を吸い込んだら、サクラの匂いが思いっ切り鼻腔をくすぐった。

クラクラと眩暈がしてくる。

しまった・・・。これまた逆効果だった・・・。



ヒクヒクと引き攣っているオレの顔を大きく覗き込むと、満面の笑みを残してサクラが立ち上がる。



「じゃ、今度こそ帰るね。先生さようならー」






パタン・・・

一人、部屋で頭を抱え悶え苦しむオレをよそに、サクラは軽い足取りで玄関を後にしていった。





「・・・・・・」





い、一体いつの間に、あんな破壊攻撃を仕掛けるようになったのか・・・。

参った・・・。完全に油断していた・・・。





「うがーーーっ!!!」






外で、サクラの気配がくるりと振り向き、クスクス笑いながらゆっくりと遠ざかっていく。












あぁ・・・、この先、一体・・・どうなる事やら・・・。



本当に、オレ・・・これから、どうしたら・・・、良いんでしょう・・・。